ないからだらう、
ことによつたら汽車のとまつたときに
やつてくるものかも知れない、
――さあ帰つて眠らう
私は傍をふりかへると
おかしなことには
小犬は眼を真赤にして
待つてゐる主人が来ないので泣いてゐるのだ
私は犬の求めるもののためにも、
滑稽で純情なこ奴のためにも、
不幸は早く去つて
幸福が早く来るやうに
ねがつてやつた
自然偶感
風はしつきりなしに硝子戸をうちたゝく
雲は人々の生活の
頭上を走りまはる
花の開いたのは
花が怒つたときであつた
彼女は甘い蜜を蝶に引き渡すために
花を開きなどはしなかつた
蝶! あついは泥棒でしかない
水は下流にむかつて
その喜びに似た白い泡立ちをたてる
その泡立の痕跡はすばやくて捉へがたい
通りすぎるものよ
開くものよ
流されるものよ
閉ぢるものよ
人は街に群れ、
ひそひそと語る
森は騒ぐ
花開く怒り
水流れる喜び
悠久として真実は
騒がしい捉へ難い早さで走つてゆく。
生活の支柱
暁は山と山との間へ色づいた雲を
茜色にひろげる
あなたと私との激しい生活の中から
堪へ難い苦しみを
ひとつひとつはぎとり
精神の暁を
わたしはいま眼の前にみた
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