ばかり、
こゝで夜、車はとまり、人は眠る、
地上に眠むるものゝ背は痛み
寝返りをうつたびに
風は怒りの声を耳の傍でさゝやく
土が眠るものを冷めたく庇護するとき
心は眠るものを熱く愛す、
こゝに放逐者が寝息をたてゝゐる、
白々しい怒号によつて
人々は再び暁を迎へ、出発する、
鉄の魔女を乗せた車を
人々は守りながら
汗をかきつゝすゝむ、
魔女は車の上で地団駄ふんで
指さす方に車を進ませやうとしてゐる、
哀れな従者を従へて
自由を泥《どろ》に射《う》ちこむために
真黒い情熱的な叫びをあげつゝ
眼の前の丘陵を目ざしてすゝむ。


私と犬とは待つてゐた

ものゝ響いてくるのを
きくことは楽しい
夜は改札口で
私はレールが鳴るのをきゝながら
ぼんやりと人々の乗り降りするのをみてゐた、
一匹の小犬がゐて
そはそはと歩るきながら
降りてくる主人を待つてゐるやうであつた
ながい時間はたつたが
私も犬もそこを去らない
私はたしかに何ものかゞ
やつてくるのを待つてゐるやうだ、
青い信号燈が赤くかはつたり
赤いのが白くなつたり
くりかへす
でも私の待つてゐるものは来ない
これは汽車にのつて
やつてくるものでは
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