おどおどとして正直に
忙しさうに路をゆく人もゐるだらう
寝床をひんめくるやうに
地球の上から夜をひんめくつたら
優しい心を夜襲しようとして
狼の群が山の頂きに吠えてゐるだらう
ぐうたらな思策家が思はせぶりなペンに
インキをひたしてゐるだらう
なんて嫌な夜が続くのだらう
文学も、政治も、映画も、
みんな嫌な夜の中で案が煉られ
明るい昼の時間にもちだされる
ざわざわとした落ち着きのない
塹壕の中で立ち乍ら眠つてゐるやうに
すべての人々は嫌な夜を
不安な休息にもならない眠りをつづけてゐる
怒りをとろかす眠りを
うけいれる位なら
私は死ぬまで一睡もしないで狂つた方がいい
めざめてゐる昼の時間のために
良い妹のやうな夜であつたらいい
だが悪辣な女か、獰猛な猫のやうに
人々の心に噛みつくために
よつぴて人々の心の中を騒ぎまはる
夜よ、お前はかつてのやうに
暁を待つてゐる純情な夜ではなくなつたのか。
白樺の樹の幹を巡つた頃
誰かいま私に泣けといつた
白樺の樹の下で
幼い心が幹の根元を
三度巡つたときからそれを覚えた
草原には牛や小羊が
雲のやうに身をより添はして
いつも忙がしく柵を出たり入つ
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