んだ声で
わかい精神を語れない
大人とは一体なんだらう、
死ぬ間際まで私はそれが判らないでしまふだらう。
旅行者
青年は眼ばかり若々しくて
体は生活で、さんざんに汚れてゐる
若い人生の旅行者よ。
僕は君とゝもに
若い手足のはたらきを
どれだけ果したか、
また果しつつあるかを反省してみよう。
風は雲をふり払つた、
だが依然として雲は湧きあがり
空から尽きようともしない
雲は風にいどみかゝつてゐる
君は自然の争ふさまや
悠久なありさまも忘れたのか
もし君が夜の墓石の上に枕をもちだし
夜つぴて星を数へてみたとしたら
明日は――きつと鳶になつてもいゝと思ふだらう
私はいまこゝに青年期のながさを打ち樹て
不老不死の精神に奉仕しようと思ふ、
若い旅行者は、
きのふ何処から出発してきて
けふ何処まで着いたか、
青春の歩みをもつて
太陽と月との着実な歩みに答へねばならない。
若い旅行者よ、
君の健脚のそのやうにも
君の思想を前進させよ。
嫌な夜
ざわざわと風が吹く
吊り下つた電燈は絶えず動く
遠く犬が鳴く
不安な胸騒ぎがする
沈着で禍などをすつかり忘れた
肥満した人間が酒をのんでゐるだらう
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