心の敷物
いまも呪咀と罵りの
いつぱいはいつたトランクを引つさげて
私は寝床をぬけだして
朝の街の中に走りだした
生の中にもちこんだ赤い死の色
私の眼は死に光り
生きてゐるにぶい感能のない通行人や
電車の中の愚鈍な眼の人々に
その私の視線をつめたくをくる、
彼等の眼を蘇生させることは空しい
そして私は一日中街をかけまはつて
疲れて寝床に帰つてきてその中にもぐる
自由にふるまへ私のいのちよ、
朝と夜との間によりそれはないのだから、
飢えたら自分で自分の舌をしやぶるのだ、
漂泊の精神、
建物と建物との間を
自然の陰影を悲しみながら通過する
一日中かけまはる心の敷物、
帰りにはズタズタに擦り切れて
血にまみれた旗印、
ばたばたと斃れてゐる私の無数の死骸、
納屋の中の青春
あゝ冬はいやだつた
青春はコールタールを塗つたくられた
汚れたワイシャツを着た私達の人生が
納屋の中のやうな貧しい家で
おたがひの心も肉体も
ガバガバと鳴つて暮らした、
いま漸く春がきて、
しかも習慣的に――、
沖からは塩気を含んだ風を岸におくつてきた、
体はそのためにしめつて
私達は始めて人心地になつた、
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