引き離された距離に私は立つてゐる、
人々は私を悪魔のやうに嫌がる
地球の中に地球がある、
人々の愛の中にではなく、
人々の愛の外に、私の愛がある、


寝台の歌

生きるといふことがどんなことか
繰り返し考へてみた
だが結極《ママ》はわからない
現在――、だけが生きることだらう、
過去――そんなものは信じたくない、
僕の過去は自分が踏み荒し
他人にも踏みあらされてしまつた、
未来――そんなものはない、
「未来」といふ言葉が残つてゐるだけだ、
眠つてゐる間も生きてゐた
そんなことは少しも嬉しくない
眠りから死へ――、
そのまゝつづいても何とも思はぬ
ふと眼がさめる
爽やかな朝だ、
すべてが新しくまるで生まれた許りのやうだ、
無精に赤ん坊のやうに
本能的になり我儘になる、

そして夜が来た
僕は寝台にはいつたところだ、
僕の慾望は一日のうちに赤ん坊から年寄までの
感情生活をやつてしまひたい
それですべてが終るのだ、
あすの窓が明るくならなくても構はぬ
僕の寝台よ、
お前は眠りから真すぐに死へ墜ちないのか、

だが暁の寝台は四つの脚を
さわがしく音たてゝ
またもや僕を眼覚めさせるだらう。
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