、
人々の肉体とそれを取巻く外界との
意地の悪い物理的な圧力の争ひを
けふも私は街でみたのだ、
私はそれをみて頭痛を病んで街をさまよつた
吸引の強いポンプが
人々の肉体と心から水分のことごとくを掻きだし
そのはげしい高い響を
省線ガードの傍で
夜となく昼となく
スチームハンマーのやうに聞いた、
いまは残されたものは生命だけだ、
それをもち運ぶものは肉体であつた、
取り去ることのできない生命の凝結、
さらば私よ、いつかは滅べ
時が生みだした私生子よ、
お前人間の肉体と生命よ、
地球の中にもう一つ私の地球がある
私は地獄に陥ちたのだと
人々に噂されてゐる
ほんとうだ私は救ひ難い奴だ、
救ひ難いところへもグングンと這入りこむ
私は乱暴で、奇怪な、感情をもつてゐる
私はそしてあらあらしい風のやうな呼吸をする。
だが、さまよふ私の心は誰も知らない
私は野原を行くが、
自然の野の中に、もうひとつ私の野をもつてゐる、
私は町をあるくが、
人々の町の外に、もうひとつ私の町をもつてゐる、
あゝ、地球の中にもうひとつの私の地球をもつてゐる、
人々は私の孤独を、私の地獄と呼んでゐる
近よりがたい敬遠
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