すぼめ
とほくに強い視線をはなしながら
暗黒から幸福を探らうとしたとき
瞬間の雨の音のなんといふ激しさ、

心の船はまだ沈まないのか
さからふもの、私の彼方にあるもの
お前波よ、私の船をもち運ぶだけで
お前は、遂に私を沈めることができなかつた、
雨の日も、嵐の日も、晴れた日も、
私の船は、ただ熱心に漂泊する
私の心のさすらひは
いかなる相手も沈めることができない、
私の静かな呼吸よ、

地球に落ちてくる雨、
小さな心を防ぐ、大きな洋傘、
豪雨の中に
しばらくは茫然とたちつくして
私は雨の糸にとりかこまれた、
あたゝかい肉体、
生きるものゝ、さまよふ場所の
なんといふ無限の広さだらう
暗黒の空の背後には
星を実らした樹の林があるにちがひない
それを信じることは、私のもの
黒い洋傘の中は、私のもの、


交叉点

私は他人のためにも自分のためにも不安になつてゐる、
すべての人々は生命の延長と
死の接近との交叉点にたつてゐる
それは一つの肉体で
二つのものを果たさなければならない悩みだ、

立ち去らない不安
それは立ち去らない生命のことだ、
まだやつてこない悲しみと
喜びのために焦らだつのだ
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