なつかしや豚共
押し合ひへし合ひ
到着せり。
デッサン
大馬鹿者、画家の仲間にまぢつて
デッサンなるものを描いてみる
女、素裸で立ち
何の変哲もなし
前を向き、後を向き、横を向く、
ひざを立て
ひざを下ろす
刻々に姿態を変化させる
これを称してクロッキイといふ
画家達、眼をつりあげ
唾をのみ下し
あわただしく紙を
サラサラと鳴らす、
大馬鹿者つくづくと
女の肉体の中心をみる
そこに臍あり
臍とは肉体の
永久のほころびの如し
子供のころ
こゝのゴマといふものを取り出して噛み
ほのかにわが肉体の味を始めて知つたことがある
大馬鹿者つくづくと
モデルのほころびを眺め
感極まる、
画家たち眼を怒らし
鉛筆をかみ
あわただしく
かくて百千の女を
描けども
天国は
遂に来らず
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哀憐詩集
黒い洋傘
争ひもなく一日はすぎた
夜は雨の中を
黒いこうもり傘をさして街に出た
路の上の水の上を
瞬き走る街の光りもなまめかしく
足元の流れの中にちらちらする、
目標もなくただ熱心に雨の街をさまよふ
哀れな自分を黒い洋傘の中にみつけた
しつかりと雨にぬれまいとして肩を
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