の前には
しきみの葉を挿し
線香の煙立ちのぼる
大馬鹿者、墓の林の中を女と散歩す、
心はいさゝかも鬼とはなれず
青春の蕩児のやうに
枯葉を蹴飛ばしながら
新しき運命のために
手さぐりでゆく盲人の散歩のごとし
一つの墓石をはぎ起せば
そこに幸福に通ずる道もあらう、
あゝ、しかし今は
幸福と不幸との境目に立つて
静かに時の到るのを待つばかり
雲足は早く
風は冷めたく
墓場に添ふ石垣の傍で
ルンペン達が焚いてる炭俵の火の
仲間にいれてもらふ
手をかざし、焔を靴をもつて蹴る
――人生に暖きものは、火か、
恋愛の尽きたるところに墓あり
墓の尽きたるところに火ありか
大馬鹿者墓場を出で、
その感がふかい。
駅構内
どんなにいそいだとて
道はいそがれない
先づ落着いて
ゆつくり歩るく
私の散歩は行手よりも
あたり見ること忙がしく
とかく鬱陶しい旅でござる
夕暮れともなれば
鐘が鳴る
一つの鐘を中心に
六つの鐘の音が入り乱れる
トンカン トンカン
トンカン トンカン
あゝ その鐘の音をきくのはたまらない
崖の上から見下ろした
暗がりの駅構内
穀類の俵をはこぶ労働者
線路に突入する
貨物列車には
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