のやうに
陽の光りををづをづと
建物の間から盗み見てゐる、
こはばつた靴で
かたい歩道をあるくとき
一足ごとに
優しい心は打ちつけられ
良くないたくらみを起こさせる、
農夫も見ず
牛も見ず
牛は耳の下にツノがあるのか
ツノの下に耳があるのか忘れてしまつた、
鋤の格好も忘れ、
鎌を磨ぐことも忘れた、
都会はどこへ行つても
心に反撥する堅い路、
懶く物を考へ
いそがしく走り
かなしく酒に酔ふところ、
村のやうに
黄色い穂がさわがず、
ボロのやうな人々の心がさわぐところだ。
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愚鈍詩集
病気
大馬鹿者が病気となれば
一日中寝台に寝てゐる
手萎ひ、足萎ひ
起きることができない
ハラワタは比較的順調なれば
食慾は徒らにすすむ
細りもせず
肥えもせず
健康でもない
さりとて病人でもない
大馬鹿者はとにかく
こゝまで生存してきた
雑炊をつくり
それに鶏卵を放つて喰ひ
むなしく一羽の雛つ子が
誕生するのを拒否してしまふ
茶の葉をせんじて飲み
熱いといつては癇[#やまいだれの中は「間」]癪を起して
茶碗を傍になげとばす
カミソリをもつて髯をそる
手元甚だ危ふし
崇高な哲
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