青く沈みがちです、
いらいらとした人々の
行き交ふ都会
そこをあなたと私の
かうした二種類の
眼をもつた人間が歩るいてゐます、
特別な眼です、
人々はわれわれを
幸福な奴だといふのです、
苦しさと酔ひとに
異様な混濁をもつた眼をして
二人は人々の生活の中を
悠々と横断します、
恋の眼よ、
お前は何をみてゐるのか、
だがふたりの眼は
何事も答へない、
人々の侮蔑も批判も、
悪態も嫉視も、
まもなくこの眼が
おだやかにじつとみをろして
しづめてしまふでせう、
まもなくこの二人の眼は
それは湖水にかげつてゐた陽が
いつぺんに明るくなるやうに
怖ろしい速度で澄んで行つた、
四つの眼は
人々の生活の中で輝やいた、
海の上の展望鏡《へリオスコープ》のやうに
人々の生活を波の上から見廻し、
洞察し始めた、
愛は水圧を堪へる潜水艇のやうに
愛はすべてのくるしみの
重圧をも堪へだした
二人の愛は潜水艇のやうに
苦しみをもぐつてゐる
呼吸が長い、


秋の詩

秋の悲しみを知らない
あなたの幸福な一日よ、
そして貴女のいひぐさでは
――わたしは詩人でないからと、
そして永遠にあなたが秋の悲しみを
知らない
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