うとしながら
心に焼ゴテを押しつけあひ、
あなたは男のやうに強く
わたしは女のやうに優しく
たがひに愛をたたかつた、
そして高い情熱の分岐点で
ふたりは別れた
わたしも傷つき
あなたも傷ついた、
ふたりの知つたものは
真実とはいかに
はげしいものであるかといふだけであつた
たたかひが心に哀しい、嬉しい永久に消えさらない文字を彫りつけ
あゝ、あの時の時間は流れ去つた、
すべては追憶となつた、
ただ愛の想ひ出は日に増し
濃く、甘く、熱く、心の中に
現実化されてゆくことは辛い、
かりそめの寝床の上の愛ではなかつた、
あなたといふ過去の女が
引きずつてきた長い帯を
わたしが新しい足で
踏んで踏みそこねて転んだのだ、
女よ、お前の愛はふかく
私の情熱はあそこの底を究《きは》めた、
お前の愛は暗く反時代的であつた
私の顔をさんざん
あなたは爪で掻いた
わたしは血にまみれた
しかし私は憎んでゐない、
去つて行つたあなたの強さを愛してゐる。


愛は潜水艇のやうに

かわいらしい鳩のやうな眼に
だれが注射をしたのだらう、
まるで充血をして
苦しさうに
あなたは私をじつと見る、
わたしも沼のやうに
眼は
前へ 次へ
全19ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング