ふふたつのことより
知つてゐない私にとつて
死ぬ、死ぬといつて
芽出たく天寿を全ふしたら
おかしなものだ、
葬式馬車は列んでゐる、
こいつらの期待に答へてやらねばなるまい、
腐つた思想をどこまでも持ちまはるのか、
若者たちは徒に憂鬱性《ひぽこんでりい》になる
老いた思想が若い思想の
ながれの堰《せき》となつてゐる
古い思想よ、早く死たばつてしまへ、
水をのみおめおめと飯をくらひ、
三色菫《ぱんじい》の花をながめる、
林檎の袋にもならない、
粗雑な紙に粗雑な詩をかく
おめおめと生きてゐるのは苦しい許りです、
だが、友よ心配し給ふな、
女よ、愛人よ、
気を安んぜよ、
私は思想と共に
体を永らへさせねばならないから
私は死ぬ死ぬと
いふことを楽しみにしてゐる
私はこの詩を書いて
明日天井から私がぶら下つてゐても
不自然でないやうに
平素から心がけてゐる
事実私の死ぬ自由を
だれが停める力があるだらうか、
友達も、愛する女たちも
停めることが不可能だ、
だが何処かで『死ぬな』と言つてくれてゐる、
私の心のなかの階級の母が、
私の心のなかの子供にささやいてゐる、
愛と閑暇
心臓の苦しむのに
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