よ、
お前は私たちふたりが
愛を新しいものにするか、
腐つたものにするか
いま賭けようとしてゐるのをじつとみてゐる、
たつたふたりきりの谷の上で、
そして強い意志の人は崩れた、
私はバネのやうに
その人を押さへた、
極端な冷静さの中に
女は、愛に貪慾な唇は
山脈を叩いて
とほく去つてゆく
部厚い雲のやうに
微妙なはためきを
私の唇に与へた、
そのとき、そして二人は
完全な秘密をもつた、
新しい愛の事業は始まる
カナカナが
熱い雨が降るやうに
ふたりの足のあたりの樹で鳴りだした、
美しい血を何処に流さう
私は馬や、豚よりも
純潔な血をもつてゐる、
自殺するならどこが良いだらう
血を、何処を選んで流さうか、
神聖な場所といつたらどこだ
周囲をみまはして
発見《みつ》けようとした、
銀の小石を敷いた広場など
最も格好な場所だ、
放らつな心と肉体を
横たへて
金色の虻がとんできて
私の鼻の頭にとまる
わたしは決して起きあがらないだらう、
わたしの民衆の死体は
たくさん虻の足にけだされる
誰でも一度は死ぬことを真実に
考へてみたことがあるだらう、
私もそのことを考へる、
生きるか死ぬかとい
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