とつて何者にも犯されない
幸福な時間であるし
私の運命の翼を
あなたが押へてゐるといふことは
間違のないことだから、
貧しさで掩はれてゐる地上を
とびたつことが出来ないで
羽ばたいてゐる虫のやうなものだ、
もしあなたが私の翼を
苦しみをもつて押へつけずに
愛をもつて開放し、
愛をもつて答へ、
軽々と飛びたつものにしてくれたなら、
私はどんなに嬉しいだらう、
私はどんなに勇気がでるだらう、
たたかひのために大空に
あなたも私も列んで飛び立つ
荒鷲の愛をのぞんでゐる、
なんのこばむこともなく
素直に私に与へてくれたあなたの手よ、
それは拒まれるよりも
どんなに強烈に私に自制を与へたらう、
最初の微笑が永遠であるやうに
最初に私に与へてくれた
あなたの手はまた私を感動させた、
感謝させた、
永遠にその温みは私の記憶から去らない、
谷の上
ふたりはあてもなく歩るいた
都会の雑踏を
本能的に避けて、
ふたりは谷の上に出た、
そして接近して坐つた、
谷の中をみをろした、
木立ちは重なり合つて
谷の中は暗くてみえなかつた、
ひろく明るく無限に
ただ空だけはふたりの背後にまで展がつてゐる、
自然
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