なたとわたしは列んで
大きな樹の幹にもたれかゝつて足をのばした、
私は生れて始めて
あんなに静かな休息のまどろみを
経験したことはなかつた
私はこの上もなく動乱的な愛を好みます、
こゝでは極端に静かな
幸福な時間を感じました、
私のうとうととした眠りは
全く純粋でした、
たたかひの中で素晴らしい静穏があることを
知つて私は驚ろくだけです、
静けさは愛すべきでせう、
死ぬことの無意味とたたかひながら、
生きてゆくことの憤りを
生活の激動のさなかで
どういふ形で表現したらいゝか、
わたしたちはそれを知つてゐる、
そしてその仕事のために
休息はない、
蝶々がとんでゐるのを見て驚ろいたり、
小さな木の実の降る中で
愛しあつたりすることを
私は全く忘却してゐた、
なんて愛は敏感なものだらう、
忘れ、見落してゐたことをみんな思ひ起す、
愛はそして精神の休息であることを証拠立てる、
明日私は勇気をもつて
強い衝動をもつて
争ふべきものと争ふことを約束するだらう。


夕星の歌

夜の空は黒に近い紺の色
地上の茂みは暗かつた、
空の下に私達は立つて
そして誰に遠慮もなく抱擁する
一瞬間の陶酔のなかにも
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