身振でかういつた
――おゝ、メランコリイよ
  おれのロシヤよ、憂鬱な存在だ、
  お前の何処の隅に行つても
  牛の尻に糞がくつついてゐるやうに
  憂愁《トスカ》がくつついてゐるのだ
そこで彼はぶつぶつ呟やいた
解放された農民が
燕麦のことばつかりで
頭の中をいつぱいにしてゐるといふことがあるか、
立て、立て――と焦々と
インテリゲンチャ達は悲しげに喚きたてた、
当時のロシヤでは世の有様は
絶えいるやうな絶望が
地上の空気の一切を色濃くとぢこめてゐた、
ナロードニキ達はヒステリイ化した
彼等の理論家ミハイロフスキイの書く物は
理論のくせにお伽話よりも面白かつた
読者をゲラゲラ笑はせながら
啓蒙的であつたのだ、
ところで曾つての日本のナロードニキ達の
評諭はどうであつたか、
現在残存するところのナロードニキ達はどうか、
ユーモアなものを股の間に
ぶら下げてゐる人間とは思へないほど
ユーモアといふものを解しない奴ばつかりだつた
木の皮だつて、この連中の書く
理論や小説よりも気の利いた味がする
啓蒙とは――つまり笑はせることだといふことを知らない、
真理を嗅ぎ出すトガリ鼻が
たくさん集ま
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