は灰と塩とをまぜあはしたものを、
玄関の敷石の上に三角形に積みあげて、
神棚から火うち石をもつてきて、
――カチン、カチン
今日こそ、妾の旦ツク現れよ
と許りに火うち石を情熱をもつてうつ、
線香花火のやうな火を出しながら
札を焼いた縁起灰の
千客万来に信頼し
敬虔な態度で祈り
彼女は招き猫のやうな奇怪な手つきをする、
灰を売つた男は間もなく
新しい伴天をどこかにやつてしまふ、
もとの木阿弥となつて
材料を仕入れに再び銀行の
ゴミ箱の中にやつてきたが、
ついに頭から灰は降つてこなかつた
重役はその頃おごそかに爺に言つた、
――灰は銀行の外に出してはいかん
どうも近頃灰を売るものがあるんぢや、
一切は旦那さまのものであり、
紙幣を灰にしてさへも
彼等は乞食の所有になることを拒む。
シャリアピン
1
わたしはシャリアピンさまに
永年仕へてゐる蚤
ともに韃靼の古都カザンに生れ
ともに暮して当年六十四歳、
夏はシャリアピンのカラーの下の涼しいところに
冬は暖い頭髪の中に
平素は主として鳩尾《みづおち》のあたりに住んでゐる、
早耳、早足は小生の特長
御主人シャリアピンが御承知
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