重に抗議してやる
 第一にサクラ子ちやんの毛布を
 あの助平女流詩人から取りかへしてやる、
 それから育児係りの辞表を叩きつけてやる、
 尾山に父親の正統なる義務を果せと要求してやる」

   四十九

尾山の共同生活の家にたどりついた頃は
大西はすつかり元気を失つてゐた、
「あんた達はゆふべ何処へ泊つたのよ」
りん子が六畳間からかう声をかけた
「野宿をしたんだ」
「まあ」といふりん子の声につゞいて
尾山の声で「大西君それだけはしないでくれ給へ」
大西は答へた「教育上よくないかね」
部屋に上つてみると、また運命が変つてゐた、
昨日の古谷は失脚して尾山清之助が
りん子の傍に丹前を着て坐つてゐた、
「すると今度は俺が丹前を着る番だな」
大西は心にさう思ふと穏やかならぬものが
胸から背骨の間を馳けまはるものがあるやうに
思はずぶるると身ぶるひした、

   五十

その翌る朝がやつてきたが
大西は丹前を着る機会を失つてゐた、
しかも形勢は異状に展開し
依然として尾山清之助であつた、
その翌る朝もまたその次の日の朝も尾山は連勝し
古谷典吉、草刈真太は共同生活を去つてしまつた、
しかし大西三津三
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