入るときに
自然が怒る時を得たかのやうに、
四十八
翌る朝、原つぱの上に陽が
高くあがつてしまつても
二人は死んだやうに寝入つてゐた、
まもなくサクラ子が眼をさまし
寝入つてゐる大西の枕元に
行儀よく、きちんと坐つたまゝで
大西が起きるのを何時までも待つてゐた、
大西があわてゝとびをきて
面目なささうにあたりを見まはし、
それから二人は沈黙がちに歩るきだした、
とつぜん理由のわからぬ怒りがこみあげてきた、
「おれたちは野宿をしたのだ、
誰がそんなことをさしたのだ
母親をなくしてしまつた可哀さうなサクラ子、
ぐうたら詩人尾山を父親にもつた可哀さうなサクラ子
最初の人生を野原に寝て味はつた可愛[#[愛」に「ママ」の注記]さうなサクラ子
この子をこれから誰が育てるのか、
託児所をつくれ」
大西はカッと眼をみひらいて空を睨んだ
そのとき朝の太陽は
「そいつは俺の知つたことぢゃない、
お門違ひだ、託児所のことは政府に頼め」
と太陽はゲラゲラ笑つたやうに思はれた、
「おぢちやん、何をそんな怖い顔をしてゐるのよ、
サクラ子、お家に帰りたくなつたの」
「お家へ帰らう、そして厳
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