労とが
彼を眠りの中に一気に引きこんだ
大西は睡魔と闘ひ、非常に努力しながら
とぎれとぎれにアリランの歌をうたひだした、
 「アリラン
  アリラン
  アラリヨ
  アリラン峠をこえてゆく
  富と貧しさは
  まはりかはるものなれば
  汝等、なげくなかれ
  いつかは君等にも来るものを」
歌ひ終つたとき全く眠りが彼をとらへてしまひ
どこか遠くの方でサクラ子の声をきいた、
サクラ子はじつと大西の歌をきいてゐたが
「おぢちやん、こんどはあたいが歌ふ番だわ
 おぢちやん、おぢちやん、
 ―坊やはよい子だ、ねんねしな
  坊やの、お守はどこへ行つた
 おぢちやん、おぢちやん、おや、ねんねしてしまつたの
 ―あの山こえて、里行つた、
  里のみやげに、何もらうた」
サクラ子は小さな手で大西の胸を
歌ひながら夢うつつで軽くたたきながら
サクラ子が育児係大西を寝せつけた
やがて大西は雷のやうな、いびきをかき始め
つづいてサクラ子も小鼻をピクピク動かしてゐたが、
まもなく二人とも深く寝入つてしまつた、
すると周囲の草が、吹き過ぎる風の
衝撃をうけて生きもののやうに動き始めた、
人々がこんこんと寝
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