おやすみのとき
 サクラ子に歌をうたつてくれたの
 かうやつてね、布団をたたいてくれたの
――サクラ子ちやん、
 それではおぢ[#底本の「じ」を訂正]ちやんが、朝鮮のお友達から
 教はつたアリランの歌といふのを歌つてあげよう
 そこで大西三津三は
 星を仰ぎながら小声で歌ひだした
 「アリラン
  アリラン
  アラリヨ
  アリラン峠を越えてゆく
  かくも蒼空に、星はあれど
  われらが胸は
  斯くもむなし」
 歌ひ終ると大西は寝ながらチヱ[#「ヱ」は小文字]ッと
 空にむかつて唾をとばし
 「斯くも蒼空に星はあれど
  我等が胸は斯くもむなし」かと
口の中で繰り返した、
サクラ子の肩を手で軽くたたきながら
もう眠つたらうと顔をのぞきこむと
サクラ子は冴えた眼をしてゐて
つづけて歌へとせがむ

   四十七

――ぢや、もう一つだけアリランの歌のつゞきを
 歌つてあげるから今度は温和しく眠るんだよ
大西は眺めるともなく空を視線で撫でまはしてゐると
視線は空の一角で一つの星が地上にむかつて
青白い光りの線と化して
流れ墜ちるのとぶつかつた
眼に強い刺戟をうけた
すると倦怠と脅えと疲
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