おやすみのとき
サクラ子に歌をうたつてくれたの
かうやつてね、布団をたたいてくれたの
――サクラ子ちやん、
それではおぢ[#底本の「じ」を訂正]ちやんが、朝鮮のお友達から
教はつたアリランの歌といふのを歌つてあげよう
そこで大西三津三は
星を仰ぎながら小声で歌ひだした
「アリラン
アリラン
アラリヨ
アリラン峠を越えてゆく
かくも蒼空に、星はあれど
われらが胸は
斯くもむなし」
歌ひ終ると大西は寝ながらチヱ[#「ヱ」は小文字]ッと
空にむかつて唾をとばし
「斯くも蒼空に星はあれど
我等が胸は斯くもむなし」かと
口の中で繰り返した、
サクラ子の肩を手で軽くたたきながら
もう眠つたらうと顔をのぞきこむと
サクラ子は冴えた眼をしてゐて
つづけて歌へとせがむ
四十七
――ぢや、もう一つだけアリランの歌のつゞきを
歌つてあげるから今度は温和しく眠るんだよ
大西は眺めるともなく空を視線で撫でまはしてゐると
視線は空の一角で一つの星が地上にむかつて
青白い光りの線と化して
流れ墜ちるのとぶつかつた
眼に強い刺戟をうけた
すると倦怠と脅えと疲
前へ
次へ
全98ページ中78ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング