予行演習は工場の前で――、
さうだ、全くすべてが手順よく行つてゐるだらう。
紙幣は積み重ねられ
片つ端からポンポンと
鉄の機械をもつて丸く打ち抜かれ
爺は汗みどろで、
この札束を車に積んで
銀行の裏庭に運びだす
一陣の風がドッとふいてきて
その一枚をひらひらと舞ひあげ
遠くの舗道に落ちたのを
拾つたものがあつたとしても
丸く打ち抜かれたこれらの札は
何の使ひものにもならないだらう、
古札焼却の儀式が始まる
重役、課長もその場にたち合ふ
山のやうに積まれた札へ
火をつける役は爺の役
節くれだつた爺の指がマッチを擦るとき
何時ものことながら人々の目はきまつて
最初の小さな焔に目をやる、
火は拡大され札は音をたて
果てはタンバリンのやうに
乱調子に歌ひ出す
黒いけむりは何か得態の知れない
格好をしながら物の形をして高く立ちあがる、
私の詩人がその場に居合はせながら
私はハムレットのやうに
ひとさし指をもつて空に流れてゆく
紙幣のけむりを指さしながら
芝居がかりで大見得をきる
――あの煙はラクダのやうに見えるだらう、
鯨のやうに見えるだらう、
おゝ、ななめに銃を背負つた
血まみれの
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