てゐる
重役が現れてきて
自動車運転手に向つていふ
――つまり、
旦那さまは
かういふ風な形に
此処で車を
おつけになることを
お好みになつてゐます
諸君、それから運転手
ぼんやりしてゐるな判つたかッ、
そこで予行演習が始まる、
自動車は重役をのせて半町程走り、
銀行の前に引返してくる、
重役は旦那さまのつもり
その車は、旦那の自家用の車のつもり、
運転手は重役の引いた舗石の上の
白いチョークの処にピタリ車を停める、
重役は車を悠然と降りて胸を張る、
階段を上りきつたところで
左右をじろりと見まはす、
育ちが良いから実に鷹揚たるものだ
銀行員は一斉に
ペコリとおじぎをする、
――よろしい、
明日は、その要領で
手ぬかりなく
予行演習をはり
銀行員はぞろぞろと奥に入る、
爺はボンヤリと不思議な
出来事のやうにみてゐる
重役はひとりつぶやく
――万事が手順よく行つてゐる、と
彼のいふやうに手順よいだらう、
いつもこの予行演習のやうに運べば
だが手順は幾つもあるだらう、
ひとつの予行演習は銀行の玄関で――、
ひとつの予行演習は満洲の野で――、
ひとつの
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