真の自由ではないと思ふ
 僕は真の自由といふものは
 精神の規律化、精神の典型化を生活上に
 当てはめたものだと思ふ
 そのやうな思想を信じたい
――そんな馬鹿なことがあるものか
 規律、典型、秩序、道徳、そんなものは必要でない、
 一切のものゝ破壊だ
 それが自由さ。
――僕はあくまでその種の自由を
 自由とは認めない
 アナアキズムは観念の世界の自由だ
 手綱なしで乗る馬さ
 君等は人間の本能を
 制御する力もないんだから
 秩序ある自由の下に
 真の闘ひを展開させることなどはできない
――いや、よく解つたよ、
 大西三津三君はどうやら
 怪しげな思想体系をもち始めたよ、
 然し思想体系をもつものは
 集団行動をしなければ意味がないんだ、
 我々アナアキスト詩人は
 いゝ友情の下に組織的行動をとつてゐるんだ、
 ところで君は何主義でもないといふ
 なんの集団行動もやつてをらん
 つまり君のは個人的法螺だな。

   二十三

――僕は、真の自由主義者だよ
 君が是非共僕に主義を
 声明しろと言ふんなら言ふさ、
 僕は、アナアキズム反対主義さ
――何をッ、大西、もういつぺん言つてみ
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