君はアナアキスト詩人壺川茂吉が
 我々の陣営を裏切つて
 コンミニストの方へ走つた
 そして我々に足を折られたことを覚えてゐるだらう。
大西はアグラの膝を立てた
――それで君も僕の足を
 折らうといふのかね
 君達に他人の足を折る自由と
 権利があつたら、さうし給へ
 壺川の場合だつて彼は豪いさ、
 信ずる方向へ進むためには、
 足を折られても妥協のない行動をとつたのだ。
何時果てるとも判らぬ議論の間に
りん子の甘つたれた声が仲裁に入つた
――みなさん、遅いのよ、寝まない
彼女の声で二人の論敵たちは
夢から醒めたやうに
たがひに顔を見合せてにやりと笑つた
――みなさん、遅いのよ、寝まない
二人はもう一度口の中で
彼女の言葉を繰り返してみた。

   二十四

蝋燭が尽きさうになつた、
パチパチと爪を切るやうな音をたてた、
理由ははつきりとしてゐるのだが
一同はそれを口に言ひ表はすことができない
――誰が彼女にもつとも接近したところに寝るか
由来恋は地理的である、
地の利を占めることが最も必要だ
尾山は年輩者らしく
早くも其の場の人々の関心事を見てとつた、
一切を彼女の自由意志にま
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