夜が来た、計画を遂行しなければ――、
選ばれた勇者は四である
それを一に帰さなければならない
りん子に対する四人の男の
心の探り合ひは一通りすんでゐた
だが、まだ/゛\勝負は決められない
飛躍といふこともあるからだ

   二十一

一番りん子を愛してゐない男の
勝に帰するといふこともあるから
愛してゐないものが勝つなんて
さういふことは真理にそむく
真理を守るには戦はねばなるまい
戦ひ尽して負けてゆくことは本望だ
勇者の消極性は一番滑稽だ
弱者の精一杯の積極性が
時には勇者に勝つことがある
女を愛するには遠慮がいらない
戦へ、戦へ、今宵一夜の戦場であるぞ――。
と何処かで戦の神が叫んでゐるやうだ。
尾山の家は六畳、四畳半、廊下つきの家、
瓦斯も電燈も四ケ月前に切られてゐる、
ローソクを立てゝ詩に関して一同は熱弁をふるひ
果てはアナアキスト詩人古谷典吉と
大西三津三との激論になつた、

   二十二

――ぢや何だな、大西君
 君はしきりにアナアキズムを攻撃するが、
 君は一体思想的には何主義を奉じてゐる詩人なんだ。
――僕は何主義も奉じてはゐない
 たゞ僕はアナアキズムの自由は

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