時、二人の愛のはげしさに
火と氷も位置をかへたやうにでんぐりかへつて
雪の中を二人でさまよつたとき
雪のつめたさもまた火のやうに
二人にとつて熱かつた。
吹雪奴は
驃騎兵のやうに
鉛の弾を二人の頬ぺたや
黒い若々しい髪を撃つたが、
なんてまあ、痛いことも悲しいことも
苦しいことも、
恋はすべてを楽しく考へさせたらう、
ふきつける吹雪の中の
一つのマントの中から
四本の足が突きでゝゐた、
二本の足はゴムの長靴
いまひとつの二本の足は赤い鼻緒の下駄
一方の足がしつかり地に立つてゐるときは
かならず一方の足は宙に浮いてゐたし、
男と女とは
どつちかをマントの中でささへてゐなければ、
二人がその場にぺたりと
雪の中に座りこんでしまつたであらう、
恋の法悦の精神の動揺の、ランデブー
聖母の海の甘さと、
悪魔の地の辛さとが、
二つのこつぜんとした自然としての人間の
調和をもとめてマントの中の抱擁、
あゝそれは本能的な最初の接吻の音、
だがその時悪魔が
不可解な微笑をもらしたことを
聖母は少しも気づかなかつた、
永遠よ、女よ、
地の荒くれた精神を
掻きいだくお前海の慈愛よ、
そして地と海とは
しばら
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