下したときは
ガランガランガラン怖ろしい
不吉な音響をたてゝこの蓋は
街中を転げまはる
悪魔はそれを見ると
げらげらと笑ひが停まらない、
そして
下水の穴の暗い丸いふかさをしげしげとのぞきこみ
そこへ白い痰をべつとしてから
再びステッキをふつて歩きだす、
そして良い声で陽気に歌ひだす
それはロシアの詩人マヤコフスキイの
露西亜語の散歩の詩である
ポース、ゼール、フセイチ
シャアグ、ブルゴル
グロハイチ
タアク、ザ、クバイ
スメッフ、ヒトブ
カーメン
ロパールシチャ
フ、ホッホチヱ[#「ヱ」は小文字]
(すべての仕事の後で
 散歩の歩をとゞろかせ、
 笑ひをそゝげ
 石がハッハと
 爆笑するやうに)
日本のマリアよ、
悪魔の愛する妻よ、
お前は愛情の天女だ、
お前はいま病ひの床にねてゐる、
そしてお前の夫の悪魔はぶらぶら歩るき
ながい憂鬱な、病の日常の、
堪へがたい、お前の肉体に
お前の心臓は鳩時計
こぼれるやうな音立てて、
時をきざむきざむ、
そして死んでゆく悲しみ
夫の愛情の濃さ薄さの
こゝろづかいははてもない、
お前の肉体と精神を
悪魔がりやくだつしたのは
十年の昔であつた、
その
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