つこつコンクリートの
東京の三月の夜の街をあるいてゐる、
呟きは、泣けるか、喜べるか、笑へるかの
三つの呪文の自問自答、
なんといふ怖ろしい奴を
街に放してをくのか、
月にむかつて背をむけて
おのれの影にものをいふ悪魔奴が、
呪文の答がでると
彼は衝動的に地上に一米もとびあがり
おのれの答への正しいか誤りであるか
実験しにとりかゝるために
どのやうなところにでも嵐のやうにとんでゆく、
その激しさと乱暴さと不気味さのために
なぜ街中の商店といふ商店は
板戸や鎧戸をガラガラ下ろしてしまはないのだらう、
二
街はネオンサインが
美しくともり
ネオン管の青と赤との
接ぞく点が一層美しく
異様に光りかゞやく
ぶるぶるつとふるいて
街の夕方の空間や時間を
水底をあるいてゆくしづけさであるいてゐる、
悪魔は若い美貌をもつてゐる、
そして彼はたちどまり突然、
舗道の一個所に小さな黒い穴
をみつけると
穴にステッキをさしこんで
グイとステッキをこねあげる
すると忽ちそこにポカリと
ガイコツが口をあけたやうな
深い黒い穴があいて、下水用の
丸いコンクリト製の蓋が
空中たかく舞ひあがり、
舗道に落
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