トクタラトクタラ
  パンチヂリをやつてゐる
  やかましうてたまらん、
  第一にあのトクタラは
  牛のために良くない、
  牛の神経にさはるから
  乳の出が悪うなるわい、
  第二に服装改善の
  主旨の下からして
  白い朝鮮服は明日から
  一切着ることならん、
  黒い服にしろ
  黒い服はよごれがつかぬ、
  したがつて洗濯をする必要がない
  トクタラトクタラの
  洗濯婆あどもは
  パンチヂリをやめて
  明日から縄をなへ
  トクタラ、トクタラと
  けしからん奴ぢあ――、
面長はぶるると体をふるはせて吐[#「吐」に「ママ」の注記]鳴る、
若いものは去つてゆく
ただ老人たちは何時までもその場を去らない、
老人たちは鷺のやうに体を折りまげ
なべ鶴のやうに地面にへたばり
声をかぎりに
哀号をさけぶ、
――哀号、面長さま、この老い先
  短かい年寄に
  難題といふものだ
  いまさら白い朝鮮服を
  哀号
  よして色服を着ろとおつしやるが
  そんなら婆を殺して下されや
  哀号――、
  神さまからのお授り物の白衣を
  どうして脱がれませう、
  哀号――
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