の編曲者
ゲオルギイ・リムスキイ、コルサコフはどうしてゐるだらう、
コーヴリは、ロバチェーフは、クラアセフは、
兵士のための合唱曲やマーチの作り手は
都会の労働者と農民のための
これらの作曲者はどうしてゐるだらう、
作曲者は、歌ひ手は、ロシアには
雲のやうに沢山ゐるのだ、
これらの人々は現実的な愛国者だ、
だが祖国を失つたシャリアピンは
追想的な愛国者だ。

   15

芸術の純潔性を
守らなければならないために
ソビヱットを去つたシャリアピンの、人間的弱さを、
それは言ひかへれば彼の芸術は脆かつたことだ、
芸術の純潔といひ、強さといふのは、
新しい試練に堪へ得るものだ、
大きな孤独よ、
祖国を去つた瞬間、シャリアピンは
集団的な政治的な協力者を失つた、
彼はブルジョア国の中で
全く個人主義的な力で
自己の芸術を固守していかなければならない立場になつた、
大きな寂寥よ、

   16

東京駅頭で、ウラーの声に彼は迎へられた、
帝政時代の三色旗を手にした
白系露人の群に、
この三色旗はいまでは玩具に属してゐて
現実にはそんな旗の国は
とつくに滅びてしまつてゐるのに、
こゝにも馬鹿気き
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