つた頑固の夢を
抱いてゐる人々がそれをしきりに振つてゐる
17
表面的な日本人の顔色の黄色さと
カラコロと鳴る下駄の音と
ホールの中の一色の拍手と
これらの日本の現象的な拍手の中に
わがシャリアピンは見事に歌ひあげたのだ、
日本の音楽理論家たちは
シャリアピンは最も正しい発声上の、
横隔膜側腹呼吸に拠つて歌つてゐるとか、
「発声学的零点の保持」
つまり音域の高低にも
喉頭の位置を上下させないといふ
理想的な型を示してゐるとか、
さまざまな批評で賑やかだ、
技術ではない、声の高さではない
わたしの心を、心を―
と一方ではシャリアピンは叫んでゐる
18
富士山の山姿の
現象的ななだらかさのやうに―、
日本の楽壇も現象的にはなごやかなものだ、
だがこゝのジャンルでも
詩や、劇や、小説のジャンルと等しく
底では、地軸では、海底では
はげしく争ひ鳴つてゐるのだ、
日本の楽壇でもショスタコーウィッチの
音楽理論を排撃する一派と
支持する一派とが喧嘩をして
支持派は団体を脱退して
新しいグループを作つたり
進歩的な争ひは展開してゐる
舞台裏でシャリアピンと握手した松田文相は
それ
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