のできない間は
私の生活は
私の芸術は
犯罪にすぎない、
おゝ、人間は
なんて嘘をいふことに
馴れすぎてしまつたのか、
あいつの小説は
なんて難解極まるのだ、
なぜ我々に
やさしく運命に就いて
解説を与へないのか、
なんて表現は
検事の論告に馴れ切つてしまつたのか、
なんて、なんて馬鹿々々しい、
菜の花から油がとれることを
忘れてしまつたのか、
彼は土臭い人間のために、
たつたひとことでもしやべつたか、
刑務所の中の物語りはもう沢山だ、
いつまでパルチザン物語りでもあるまい、
ドニヱブロストロイの
掘鑿機のひゞきはやんで
流れはとつくに
海に注いでゐる、
たゞ我々の国の人間の精神は
貫通されてゐない、
真実は
嘘の岩石の間を
辛《から》うじてセセラギのやうに流れてゐる、
可哀さうな
細々とした真実よ、
おゝ、私は個人主義のために
立派に苦しんでゐる、
他人を教唆する権限を
誰から与へられたか
彼は知らない
それは怖ろしいことだ、
だれが君を階級の教授に任命したか、
だれが辞令をいつもつてきたか、
君は勝手に教壇に立つてゐるだけだ、
蔑《さげ》しめよ、
自己を、
教へる資格があるかどうか
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