お前の新しい歌と合唱ができないのか――と
すると波はわめいた、
――アンデルセンの人魚を見れ、と
その時人魚は海の中から現れた、
月に照らされながら――、
彼女は海の中の現実を見落した、
しづかに陸に上つてきた、
彼女の欲するものは
未知の世界であつた、
憧れの地上であつた、
彼女は海の中では
到底みることのできない
美しい花や、樹木や、鳥や、人間が
どのやうな形のものか知りたかつた、
人魚は陸を歩るいた、
しかし地上とは――、
到底想像してゐたほど美しくなかつた、
また到底堪へることができないほど
痛いものであつた、
一足ごとに足の裏は
茨か針を踏むやうに痛んだ、
私も人魚のやうに
生活の苦痛を踏まう、
未知の世界を憧れよう、
それは未知の世界を
海の中にではなくて
陸の上に求めよう、
波よ、私にかぶされ、
お前の塩分の為めに
私の身体はピンと引き緊められようから、
我は人魚のやうに――、
地上よ、
現実よ、
新しいお前の針を踏まう
私はお前に激烈に愛されよう。
私は激烈にお前を愛してやらう。
階級の教授
なんて私は私を蔑《さげす》むことが
不足してゐるのか、
そのこと
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