音は私に調和した、
自然よ、お前は我々のやうに
無垢な心をもつてゐる
自然よ、私が曾つて少しでも
お前を功利的にながめたことを
ゆるしてくれ、とがめてくれるな、
お前の美は我々の本能的な眼に
依然として美しいものとして答へてくれる、
敵よりも、より多く、
お前の美しさに我々が感動するとき
お前はその時我々の好意をうける、
お前は我々の味方になる
私はお前を恋人のやうに見る、
お前のうつり変りの
はげしい感情に
我々は絶えず敏感になるだらう、
そしてお前を守るために
お前を愛するために
私は私の恋仇と私の敵と
あくまで戦ふであらう。


人魚

私が眠らうとするとき
崖の下では波音が鳴つてゐた、
そして私は眠りにおちた――、
時間が経つた。
私がふと目覚めたとき
崖の下ではやつぱり
波音が鳴つてゐた、
しかしその波は新しい波であつた筈だ、
現実よ、おゝ、私を洗ふものよ、
襲ふものよ、
お前はいつも
そのやうに新しいのだ、
波は一切のものを
鷲掴みにしようとする
真青な大きな手のやうにも見えた、
私は岸に立つて海をみながら言つた、
――波よ、
私の詩人はどうして
次ぎ次ぎと底から湧いてくる
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