も私は驚ろかなかつた、
私はこの花を平然とみてゐたとき
私の眼は白痴であつたのだ、
あらゆる事物に就いての
階級的観方といふものは
いつも単純であつていけないと考へこんでゐたから
私はいつもひがんでゐた、
あらゆる美しいものを
一応疑つてみてゐた
それは決して私の過失ではない、
私はどんなに細心と
おづおづとして
遠慮ぶかく自然や人間を見てゐただらう、
今ではすべては解決した、
自然は私に
何の犠牲的なものを要求する
権利ももつてゐないことを知つたとき
私は馬のやうに
自然の花をむしやむしやと喰つてしまふ
ことができるやうになつた、
樹よ、花よ、山岳よ、
あらゆる自然物よ、
一見厳《いか》めしさうにみえて
お前謙遜なものよ、
お前人間の生活の傍《かたはら》にあつて
たつたいまお前の上に夕陽が落ちた、
なんといふ美しさよ
私のものよ、
自然物よ、
私はお前を美しい事実として
歌ひ尽さなければならない、
歌ふとき
プロレタリアはお前のオゾンを吸ふ、
山よ、お前へ懐疑の
曳綱をつけて引つぱつたとき私は負けた
私がお前の樹の中へとびこんで
勢《ママ》いつぱい反抗を絶叫したとき
自然のあらゆる物
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