すべての男とすべての女の
腹の中に
私は胤《たね》をおろさう、
私の可愛い子供が殖えるやうに
私の思想をバラ撒《ま》かう、
私の無礼な性格は
私のせいではない
諸君よ、
私の父親を恨んでくれ、
私は日本酒と洋酒と
ちやんぽんに飲む、
コスモポリタンだ、
どつちの国籍に属する酒が
私を酔はしたか
お医者もわかるまい、
日本的現実も
ソビヱット的現実も
わたしにとつては区別がない、
ただ癪にさはるのは
足の立つてゐるところの現実が
私に貧乏を押しつけたことだ、
そのことだけで
私は単純に怒る、
私は酔つて頭が混乱してゐるのに、
奴は道徳的平静を
しんみり味つてゐる
良い身分だ、
海に囲まれたこの島国で
私は三十五年間
現実と和睦してこなかつた
今更楯《たて》つくことはやめられぬ
舌はもの食ふばかりでついてゐない
噛み切るためにもついてゐる、
太陽は空をうろつき
下界では
日本のアスファルト舗道を
右に左に千鳥足
私は思想のタテヨコと
嘔吐《へど》をもつて
さんざんに汚すばかりだ。


自然物に就いて

疑りぶかい眼をもつて見たから
夕闇の中に白く咲いた
おどろくべき大きさの
夕顔の白い花に
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