小熊秀雄全集−5
詩集(4)小熊秀雄詩集2
小熊秀雄


III


茫漠たるもの

茫漠たる不安のために
私は必死となる
野であり、山であり、村落であり、海であり、
都会であり、村であり、空中であり、
地下道である。
すべての上に住み、
すべての中に住む、
そして何処にも不安がある、
そしてその不安を私の力で埋めようとする、
私はそれが出来るか、
私は知らない、
簡単明瞭な私の答へよ、万歳、
いま私は仕事の最中
突然衝動的に一米突とびあがる、
この異様な感動は
いつたい私の脳の
何番目の抽出《ひきだ》しにあつた奴か、
私は今それを調べてゐる、
抽出しにはかう貼紙がされてゐる、
――匂ひはロマンチック、
――性質はプロレタリア、
それでよし、それでよし
私の精神の処方箋、
私は単なる掃除人のやうであつていゝ
右から左へ、
精神を移す、
悪臭ある汚穢なるもの、
喧噪なるもの、不自然なるもの、
雑多な性質と、無性格、
天を掴む飛躍と、地をさらふ脱落
私のひとふきの喇叭に
あらゆる素材よ、飛んで来い、
そして美事に整列してくれ、
――宿命はつらいし、
――運命は信じ難い、
そのことだけを考へ
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