悪い批評を歓迎する、
下僕共は主人の規律を守らうとして
過去の調和と道徳とを愛する、
 『人間が犯し得るあらゆる不善[#「不善」に傍点]は
  いづれも皆公然と聖書[#「聖書」に傍点]に記されたる
  もののみならずや?』――ブレイク
聖書もまた喰ひたい
私が犯す不善は
聖書の中に書かれてないから、
聖書は私の母ではない
彼は私を抱きしめることができない、
歴史はまだまだ聖書に
かゝれない偉大な不善を犯すだらう
然もその不善は
あくまで独創的で
我々のものでなければならない。


公衆の前で

感情も肉体も
あらゆるものを動員せよ、
ピアノは強く叫んでゐる
公衆の前で――、
手は鍵《キイ》をたたいてゐるとき
足がペダルを踏んでゐる、
そして頭が拍子をとつてゐる、
そのやうに
君は精神も肉体も
あらゆるものを調子よく動員せよ、
恐れるな、
君がどのやうに強烈に
公衆にむかつて
叫びだしたとしても
ハラワタなどが
飛び出す心配が
決してないだらうから、
口を結んでゐることは
決して意志的だとは限らない
間違ふな、
沈黙と、忍耐とを
口を結ぶのは
苦痛を堪へるその時だけだ、
口を開かせるにも
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