つの汚れものだ、
クリーニング屋は
まだ開業わずか一年だ。


詩からの逃亡者に与ふ

詩作からの逃亡者が
今日、詩から――評論へ、
詩から――小唄作りに逃げてゆく、
賢明なものは無言で
そして謙遜に去つてゆく
愚劣なものは言ふ
――三十にして詩を書いてゐる
 奴のツラがみたい、と
み給へ、なんと濛々とたちあがる
詩からの逃亡者の詩の罵倒を、
彼等がかつて詩を書いたこと
それは若さの出来心であつた、
生殖器が元気のよい間だけ
彼の詩は幾分ピンと立つてゐた、
だがどうだ、今ではもう
自分で自分の品物をもち扱ひかねてゐる、
そして彼は詩に失望し始めた
彼の生活へ通俗的なシタタリが落ちてきたとき、
彼は前足を散文にひつかけた、
後足は詩に残つてゐた、
そしてやがて彼にとつて混沌たるドブを
身ぶりたつぷりで越えた、
跳ねこえるとき彼は後足で砂を
我々の顔にかけた、
そして逃亡者は言ひ合はしたやうに
逃亡の理由をいふ
――詩ではとても飯が喰へない、と
彼等は何故もつと正直に言へないのだらう、
――詩は若さの過失であつた、と


舌へ労働を命ず

太陽の直射の中にたたずんで
朝は、歌うたひ
昼は、
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