まをもたない、
私はそれが憤懣だ、
だが私はどうして薔薇を憎まれよう、
匂はぬ花へも私は鼻をもつてゆく、
私は行動的であり
攻勢的でありたい、
これらの態度を愛す、
あらゆるものは近づいて来ないだらう、
我々が近づいて行くのだ、
あらゆる未発見の
とりのこされた
遠慮勝な
逃げ去るものに
私は接近し、追つてゆけばいゝ、
突撃し、
私は言葉をふりかざして
これらの醜いもの、美しいもの、
味方をも、敵をも、
あらゆるものを捉へてゆけば満足だ、
そこには勝敗の悔はない、
手をふれるに先だつて
花弁《はなびら》が散らうと何事だらう、
私は少しも残念とは思はぬ、
時には無人の野をゆくごとくゆく、
私は行動に
愛着をはげしくおぼえるだけだ、
生々《なまなま》しい顔をした友よ、
生き抜けよ、
君の期待が
君の処に飛び込んで来るのを待つな、


愛する黒い鳥よ

気取つた、高慢ちきな、
常識的な世界に住む人々の
窓へ顔つきだして
醜い黒い鳥は悪態を吐いた、
この鳥の友情は理解されない、
――それで結構、
さういつて鳥は
最後の毒舌を吐いて飛んでゆく、
愛する黒い鳥よ、
お前は何処に飛んで行つた
私もお前の世界へ行かう。
あらゆる人間の言葉を
忘れてしまひにお前に尾《つ》いてゆかう、
そこではあらゆる激越な正義的な、
公然たる主張をゆるされるところ
すばらしいかな、
お前の国のお前の言葉を私は理解した、
私はお前のやうに歌はう、
曾つて人間界で使つたことのないやうな
独創的な言葉をもつて歌ふために
人間の世界に帰つて来よう、
そこでは私の歌が
何の内容もないといふ批評を受取りに、
そしてお前のやうに
人々の窓を片つ端から覗きあるかう、
ウルシのやうに黒い、
ただそのことだけで私は沢山だ、
光沢のある羽を見せびらかすだけで沢山だ、
鳥よ、
あいつらはお前や私のやうな
光沢をもつてゐない人種だ、
灰色の外套を着て、
灰色の帽子をかぶつて、
灰色の町へ遊びにでかける、
灰色の議論をして、
灰色のベッドに潜り込む、
彼等は色彩のついた夢をみる本能も
力量ももつてゐない、
彼等はだんだんと
精神の痴愚の世界へと
ずるずると陥ちこんでゆく
鳥よ、
お前と私とは単純な不吉な、
理解されない叫びをあげつゝ
彼等の死を祝ふさ、
歌へ、
巨大なわが精神の羽ばたきよ、心臓よ、
お前醜い鳥よ、
光沢のある歌
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