反省しろ、
個人主義を卒業しない、
君はアカデミーだ、
まづそれを苦しみ悲しめ。


酔つ払つたり歌つたり

二六時中歯を喰ひしばる程の
憤懣などはない、
さうした憤懣が私に詩をつくらせない、
民衆は、果してのべつに不幸だらうか、
民衆の中に
たくさんの不幸も見た
だがまた沢山の幸福も見た、
酔つ払つたり、歌をうたつたり、
キネマを見たり、闘つたり、
散歩したり、女を可愛がつたり、
こんなことはみんな人間のすることなんだ、
忘れてはいけない、
我々は単なる清教徒的プロレタリアで
あつてはいけないことを、
民衆の生活の中から
ピュリタンを、
しかめつつらの深刻癖を
とりのぞいてやりたいものだ、
楽しい歌をもつて私はハシャグから
民衆はますます
生活をたたかひぬく
図々しさをもつて
私の歌に合唱してくれ
私の憤りは
よき相手を発見したそのときだ
私は二十四時間の憤りを
たつた一時間で粉砕できる
残つた時間をみんな
民衆の喜びのために使ふ、
幸福な歌ひ手
そのやうな衝動的詩人だ、
また二十四時間の幸福を粉砕し
一時間で苦痛の歌にまとめあげる、
そのやうな不幸なマルキストだ
そのやうな激情の詩人だ、
これからは民衆はもつと気儘になるだらう、
そして会話の声も
ずつと高くなるだらう、
男は勿論、
思ひがけない程女たちは強くなり、
男たちは益々露骨に
女を可愛がるやうになるだらう。


詩の俳優

ああ、私をして
この有頂天から突き落せよ、
私は詩の俳優なんだ
演技がまづけりや笑つてくれ給へ。
私はこれから気取るのだ、
私は女のやうに半襟を選むんだ、
私は自分の部屋での
苦しみで不足して
のこのこ舞台の上にまで呻きにゆくんだ。
この恥さらしのために
誰がカッサイをしてくれるか、
私は誰をひきつけることができるか、
君は立派だ、
君は男らしいわが友よ、
貴方は美しい、
貴方は女らしい、わが恋人よ、
私の俳優にとつて
なんと豊富な観客の数だらう、
私にかつさいをするもののために
私は狂気になりさうだ。
私に焼けた鉄の棒を呑ましてくれよ、
民衆よ、わが馭者よ、
私をブッ倒らせるほど
つかひまくれ、
私のグループは
すでに手順が揃つた、
彼は幕引き
慎重なる態度で
私が真実に
涙をながした瞬間に幕をひいてくれる、
某は銅鑼たたき、
なんと情熱的なる狂ひタタキよ、
某々は衣裳掛り、
私に
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