私はわからない、
何んにも知らない、
私はそろそろ憎まれだした
私が歓呼をあげるが、
誰も歓呼をあげない、
私は勝利をみた、
だが君は何処にも勝利をみないといふ、
私はそれでは夢をみたのだらうか、
君が敗北の現実をみてゐる時間に
私が勝利の夢をみてゐるといふのか君よ、
そして君は憎しみの鍬で
私のところの煉瓦を砕きにやつてくる
私の粗暴な愛は愛ではないのか、
感動は疲労しない、
そして私は火のやうに稼ぎだす
それは空騒ぎではなく
鬱積されたものを
相手の顔の上へ嘔吐するのだ、
怒りの情熱は
いつの場合も空つぽの顔《ママ》を充実させる、
才能の最後の一滴の
したたりをもだし切ることができるだらう、
忘れてゐた言葉、
それは一ぺんに召喚される
憤れ、理由を押したてゝ、
自由に憤るもの、
それは良い旗手だ、
巧者な闘ひ手だ、
君よ獲物を
とらへたときの、蜘蛛の
情熱を想像し給へ、
あのやうに言葉の綾をもつて
敵を捉へなければならない、
針を立てないハリネヅミ
鳴りださないガラガラ蛇、
これらの同居人は
闘ひのアパートから追ひ出してしまへ、
攻勢にでないもの、
それは無用の長物だ。
空騒ぎではなく
我等はこの情熱に
歌うたはせねばならない、
けふ私の頭は空つぽになつてゐた
しかし私は才能を信ずる
私は決して絶望しない、
私はいつも分相応な
憤怒の対象をみつけるから、
弱きものよ、
君も、いゝ憤りを発見したまへ、
すると君はいつぺんに
怒る男性がいかに
美しいかといふことを経験するだらう、
それはほんとうに立派だ、
試みに愛するものに
適宜に怒つて見給へ、
君は一層彼女に慕はれるだらう、
憤れよ、
金属性の時計に
私の心臓は激しく対立する
そして私は勝手に私の心臓に
時の目もりする
二十四時間ではない
はかり知れない時の目盛りを、
われわれは
我々の時間を充実して頑固でありたい、
私は愚劣さの火花を散らしながら
愚直に行動
することが一番好きだ、
君はそれに眼をそむけてゐた、
だがたまり兼ねて憎みだした、
私は勝利の盲信者であつてもいゝ、
私を変質者とみても構はない。
不謹慎であれ
わたしがはげしい憤りに
みぶるひを始めるとき
それは『あらゆる自由』
獲得の征途にのぼつたときだ、
その時、私は不謹慎でなければならない、
不徳でも
また貪慾でもなければならぬ、
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