廻つた
広野は春のまつさかり
人々は大地よりたちのぼる幽気を吸つて
みなしなやかに散歩してゐた
六
女はあまり素足で青草を踏みさまよつた
あやしき外触覚の慾情に
歩みつかれたかよわき呼吸の
あやしき内触覚の慾情に
女はばたりと土に音たてゝ
そこの叢のふかさに坐つてしまつた
七
ああすべて地上を歩むものは爬虫類である
蜥蜴、蛇、鰐、亀の類人間の類
みなつれだちて寂しくさまよひさまよふ
旅人はみな爬虫類である
女はいまなつかしい爬虫の感情がよみがへり
黄色な粘土の匂ひになやましく上気して
白いしなやかな指をふるはせながら
狂人のやうになつてタンポポの花をむしつてゐた
八
男は蛇のやうに
ひつそりとはひよつて
かろくやさしく女の肩をたたいてみた
女は電気のやうに猫のやうに
ぱちぱちと火花をちらして男からとびのいた
春のきせつのはるばるとめぐりきた
喜びも忘れたかのやうに
秋のやうに青く澄んだ
寒色の瞳をしてしまつた
九
男は女の瞳を
桃色の暖色にかはらすために
どんなに苦心をしたか
男はちからいつぱいの笑を女におくり
つぎにはしだいに重たく重たく
胸のあ
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