た
そしてひさしく凍結した氷海に
青い春情の波をみた
軽ろやかにあらだちさわぐ青い水をみた
三
男はさめざめと笑ひはにかんだ
とほく秋のをはりの期[#「期」に「ママ」の注記]節のころに
街の児供らがつめたい大地に坐つて
ひとつ ふたつ みつ よつと
雹を帽子に数へひろつたころから
しだいにとぢこめられた濃霧の期節
男らの憂鬱な白塗の病院船は
赤きあかしをますとにうちふり
汽笛はぼうぼうと長くなやましく
ああ 標識を失ひさまよふかなしき航海船
四
男はしみじみとおのが青春を掌にとり
春のやはらかな日光に照らしてみた
うれしくなやましい思ひに胸はいつぱいで
おのづと涙は泉のやうにわいてきた
ちやうど男は遠洋航海船の船員のやうに
港の赤い燈火をながめてはしやぎまはり
銅鼓を鳴らし
銅鼓を鳴らし
投錨の銅鼓にはげしく春情を唆られて
風のやうにすばやく軽装し
慾情の新らしいバスケットを提げて
あらそつて上陸した
五
男は両手をだらりとさげて歩るきだした
爬虫類のやうな恰好で歩るきだした
ざらざらと蜥蜴のやうに足をひきずつて
そこらあたりいちめんの
青草に燃える野原をはひ
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