て居るな
春情は醗酵する
一
真夜中の慾情は星のやうに青く輝き
さんらんと其処此処のくさむらで
露のやうに光りかがやいてゐた
しかしこの慾情も
冬の風景のなかにしづんでしまふと
ひからびた粘土のやうに
かさかさと風にとんでしまふ
かつては重たくやさしくもつれあつた
春情のおもかげも
こゝに寂しくやるせない悶々の思ひに
はるかにちりぢりにちつてしまつた
そのかけらはつめたい氷のやうで
いまさら拾ひあつめるすべもない
ふしあはせな北国の人々は
けふも真冬の風物に白くさらされて
血温は凍つた外界の大気とひとしくなつて
青春もむなしくふるへをののいてゐた
二
或る日
男はすとをぶ[#「すとをぶ」に傍点]にあまりちかくよつて
腰をあたためすぎたので
病的にもあやしく手足をふり
はげしくはげしく手足をふり
膝頭をうちつけたり
両手ではげしくさすつたり
真昼の光線を浴びた蠅がよくするやうな
奇怪なまねをはじめだした
感情はますます激しく燃焼し粘着し
あやしい運動はますますはげしくなつてきた
男はなかば瞳をつむつたかたちで
霧のやうな空気のなかを
魚のやうにさかんにおよぎ廻つ
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