たりを圧し
女の呼吸とぴつたりとりずむ[#「りずむ」に傍点]をあはせ
はては呼吸をだんだんとせはしくはげしく
くるしく はげしく くるしく
上手に熱心にくりかへしてゐると
いつの間にか
女の瞳は燃えるやうな暖色にかへつて
およぐやうな手つきで
そのへんの草をむちうでむしつてゐた

   十
二人のならんでゐる叢は
誰のめにもつかない谷底のやうなふかさで
やがてこの谷間に火のやうな霧が降り
草も木も花も
みなこんもりと暖気にとぢこめられ
ぴつたりと蛇のやうにもつれあつた
ふたりのからだは醗酵してしまつた。


箱芝居

なんといふ面白い世の中だ
みたまへ
ぎつくり。……ばつたり。
ぎつくり。……ばつたり。
   ×
たくさんの人形が右足をあげ
左足をあげ
まことに、まことに
巧に歩いてゐるではないか
   ×
みたまへ
ずつと向ふから
白い葬送馬車が
まつしぐらに街をやつてくる
あの馬車の中には
蝶つがひのはづれた人形が
しづかに/\
ねんねをして居るのです
   ×
ああ。街に玩具の月が出ると
燐寸《マッチ》箱を出たり入つたり
人形どもはキーキー
わけのわからぬ咽喉笛を鳴らす
   ×
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