少年といつた格好をしてゐる。
 これら午後の都会の空をとびまはる鴉は、日没のちかづくに随つて、彼等の感情は、異常な青さとなつて輝いてくる。ますます怪しいふくざつな感情と変化する、遥に颶風《ぐふう》の空から舞ひ降りて、斬首人《ざんしゆにん》のしやつぽに休息するほどの、捨身な感情とまでなつてしまふ。そして電柱から電柱へ、屋根から屋根へ、いつこくも落つかない飛行をくりかへす。
 なかには、繁華な街の十字路の、乾ききつた、埃だらけの地面におりた鴉は、すりきれ果てた、みぢめな尻尾を、さかんに土にふり廻して、倦怠な楽書《らくがき》をやつてゐるすがたが、殊更日暮れの空気と調和した。なやましく退廃した景色となる。
 私は夜の鴉の生活をしらないが、日没どきのぼんやりとした、空の明るさの中に、すつくと黒く伸びた、高い裸木《はだかぎ》に、果実のやうに止まつてゐた、鴉の集団を見あげたことがある、どの鴉もみな、あるきまつた間隔の距離に、ひつそりとした沈思を続けてゐるすがたが、いかにも暗示的で可愛らしい。
 鴉は、朝と昼と夜との、三つの異つた個性と感情をもつてゐる。
 この個性と感情は、をりをりの違つた空気と風景
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